ウサギはちゃんとわかっているの

友だちが旅行で家を空けているあいだ、猫の世話をしに行くことがある。世話をしに行くという言いかたをするとなにか義務のようなニュアンスが生じるかもしれないが、わたしはほとんど猫カフェだと思ってる。贅沢な個室猫カフェ、しかも無料の。猫との交流を…

2023年に発表した短歌/平岡直子

「傾国」(「現代短歌」2023年3月号) 回転寿司が寿司を回転させる間に天王星が消えてしまった 教卓でしばらく軽く眼をとじるだれにもみえない後光のために 祖父とわたしに血のつながりがあるということよくわからない味の素 月面は充電式の教会のよう…

最後のとき

その旅館は外観こそかなりの年季を感じさせたが、部屋は古いなりにこぎれいで、エアコンの効きも悪くなかったし、大きな窓からは海がみえた。フロントの奥には宿泊客が予約制で利用できる小さな貸し切り風呂も備えられている。姿を見ることは叶わなかったが…

わたしの弟は、

わたしの弟は、穏やかで安定感のある人なので、あまりそうはみえないのだけど、心のなかはぐらぐらしているのだろうと、ずっとわたしは思っていた。姉である自分には弟が表には出さない本心がわかる、というような話ではなく、弟の心の底なんてぜんぜんわか…

有線

毎日西友に行っている。白菜やレーズンやトイレットペーパーを買う。毎日ロシアによるウクライナ侵攻のことと、ウクライナ侵攻に対する反応のことと、その反応に対する反応のことと、人間の進化ということについて考えている。西友にいるあいだも考える。奇…

その運命

ペットを飼っている人からよく聞くエピソードとして、運命的な出会いをした、目が合ったときになにかを感じた、というものがある。捨てられているのを拾った、ピンポイントで譲渡された、レアな動物なのでその個体しか入手しようがなかった、というような、…

ランプ

さいきん急に思い出したんだけど、ちっちゃい頃、ナイチンゲールに憧れてた時期がある。子ども向けの伝記を読んだのがきっかけだった。看護師になりたかったわけではなくて、ひとつの職業のイメージを塗り替えたという功績にすごくロマンを感じたのだった。 …

髪の毛製造機

生産性のない生きかたを揶揄、または自嘲して「うんこ製造機」などといったりするけれど、わたしは個人的にはこの呼びかたはピンとこない。排泄物はあまりまじまじと向き合うものではなく、しかも一瞬でじぶんの視界からあとかたもなくきれいに消え去るから…

手を結ぶ

相変わらず新居のエアコンに対して人見知りしており、なかなか付けられない。部屋が寒い。わたしは寒さには強いのでこれでもわりと生きてはいられる。が、動きが鈍くなる。じぶんの動きが鈍いことにも、その理由が寒さであることにも最近まで気づかず、部屋…

引っ越し・破

2020年の中ごろ、引っ越し先を探した。 選択肢がありすぎると頭がおかしくなりそうだったので、まずは探すエリアをそのとき住んでいたマンションから歩いていける範囲に限定した。近所なら引っ越しが楽そうだし、生活圏を変えなくてよさそうな点に安心感…

引っ越し・序

2020年の春ごろ、引っ越しをする必要に迫られた。 もともとは実家だったマンションにわたしはわりと長くひとりで住んでいた。そのマンションを売るから退去してほしい、という連絡が父親からきたのだった。 こちらは家賃を払っておらず、向こうにとって…

引っ越し・急

2020年の終わりごろ、引っ越しをした。 子どもの頃は比較的引っ越しが多い生活を送っていたような気がするが、大人になってから自分ひとりという単位で引っ越しをするのははじめてだった。ずっと一ヶ所に住んでいたというわけでもなく、十代の後半から1…

有限

弟とは長い付き合いで、それなりに理解しあっているきょうだいのつもりでいるのだけど、ときどきほんとうになにを言っているのかわからなくなることがある。先日、弟の家からおさがりの冷蔵庫が運ばれてきた。シルバーでツードアのなんの変哲もないコンパク…

夜景

高層階にいる。広々としたホテルの客室だ。バスタブの蛇口からはこの場所の高度を感じさせないほど勢いよくお湯が出た。家から持ってきたバブ(庶民的!)を入れた湯舟にかなりのんびりと浸かったあと、油揚げのように分厚いバスタオルで身体を拭いて、その…

愛の不時着

すばらしいドラマだったけど、みつづけるのがつらくなってしまったタイミングはいちどある。風邪がすっかり治ったタイミングだった。そもそも、韓国のドラマをいちどもみたことがなく、正直いって興味もなかったわたしが「愛の不時着」の再生ボタンを押した…

非・パフェ派のひとたちに送ったメール

☽☽さん、❅❅さんへ こんにちは。土曜日に遊ぶ件ですが、さっきのメールでは☽☽さんの案に乗っかっただけになっちゃったので、別の案をちょっとだけ置いておきます。 急にまじめにパフェの話をはじめるのですが、☽☽さんはパフェの存在意義があまりわからない、…

課題

湿気は苦手だ。 乾燥や暑さや低気圧や雷や西日や蟻や掃除やミャンマー料理や大晦日や発泡スチロールやその他あらゆるものが苦手だが、とにかく湿気は苦手だ。毎日じめじめしているとだんだん身体からカビが生えるイメージが湧いてくる。外を歩くとき服と身体…

家父長制

花火買ってきまーす、とコンビニに降り立っていったはずのひとたちがしゃぼん玉を持って車に帰ってきた。この雨じゃ花火はどのみちできないからね、ということなのだけれど、この雨のなかでしゃぼん玉はできるのだろうか? 車内でしゃぼん玉をする案がいっし…

バニシングツイン現象

短歌にかかわる知人同士が結婚するということがときどき起こる。短歌にかぎらず、継続してかかわっている業界があるとときどき起こることなのだろうと思う。結婚したのち、多くの場合にその片方が短歌を辞めてしまうことは長いあいだわたしの関心ごとだった…

記憶をぜんぶ消すやりかた

長期旅行のあいだ預かっていてほしいと友だちから託された家事ロボット(本物の人にしかみえない)が本来はセクサロイドとして開発された商品であることを知ったのはロボットと暮らしはじめてからしばらく経ってからのことだった。もともとはオプションだっ…

お正月革命

クリスマスとの付き合い方はもうずいぶん前に決めて、それからずっと変わっていない。クリスマスにはクリスマスの上を転がりまわること。お正月との付き合い方がまだ決められず、毎年試行錯誤を繰り返しているものの、今年もまたこうしておろおろしている。…

禁煙に近いこと

最後に煙草を吸ってから4ヶ月近くが経っている。わたしは長い喫煙歴のなかで過去にただいちどだけ禁煙を試みたことがあって、そのときはきっかり3ヶ月の禁煙で終わったので、ここは新境地だ。 禁煙しよう、と決意をしたわけではなかった。なんなら今も禁煙…

ミント・ミント

ついにこの日が来てしまった。わたしの家の最寄りにあたるコンビニ、地球上に残された最後のサークルKサンクスであった店舗がファミリーマートに転生していた。ある夜の帰宅途中に気がついた。 その活動はひそやかにしばらく前からはじまっていた。気がつい…

みみず救出劇

最近はおもにみみずの救出活動をしている。アスファルトの道路の上に這い出てきて土のなかに戻れなくなり、路上で乾きはじめているみみずを手近な棒で手近な土の上に戻す活動。生命の危機にさらされているみみずにとってわたしは控えめに言っても救世主なの…

彼の人生

折りたたみ傘は嫌い。 折りたたみ傘を折りたたむことが好き。とても好き。 よく使う国分寺駅は改札の並びに駅ビル丸井の入り口があるので、次の中央特快まであと7分あるなぁ、その7分をホームで待つのは暑いなぁ(もしくは寒いなぁ)、というようなとき、…

食卓

夕食1 自分に食事を振る舞った。 テーブルの上には丼に山盛りのサラダと、丼になみなみと注がれた野菜スープと、それから並サイズのシーフードスパゲティが並んだ。 このボリュームじゃスパゲティにたどりつけないんじゃないかと不安になった。大量の野菜を…

わたしのリトルバード

Twitterがいやになってしまったからblogを書こうかなという気持ちになったといえばそうなんだけど、blogを書こうかなというのは一昨年くらいからずるずる考えてはなんとなく面倒になって放置してきた考えなので、Twitterがいやになってしまったことに背中を…

『みじかい髪も長い髪も炎』について

歌集『みじかい髪も長い髪も炎』を取り上げてもらっている一覧 ※太字は書評など、『みじ…』がメインテーマの文章※ウェブ上の記事はなんらかの意味で「公式」っぽい媒体のみで、個人ブログは原則的には除いてます〇 新聞・農業新聞5/26「おはよう名歌と名句」…

作品リスト

既発表作品一覧(短歌作品のみ/合作含まず) 「いつかまた町を燃やそう」(「短歌往来」2009年3月号)「散らばった衣類」(「早稲田短歌」38号/2009年)「ランプ/花嵐」「Re:」(「町」創刊号/2009年5月)「ドアの複製」(「短歌往来」2…

掲載情報

2024.42024.3・3/1(金)高円寺パンディットにて『起きられない朝のための短歌入門』&『宇宙人のためのせんりゅう入門』W刊行記念トークイベント(『起きられない朝のための短歌入門』発売記念イベント4)・3/16(土)ワークショップ「短歌を詠んだら歌集を編も…