手を結ぶ

 相変わらず新居のエアコンに対して人見知りしており、なかなか付けられない。部屋が寒い。わたしは寒さには強いのでこれでもわりと生きてはいられる。が、動きが鈍くなる。じぶんの動きが鈍いことにも、その理由が寒さであることにも最近まで気づかず、部屋のなかでじっとしていた。虫のようだと思う。
 わたしは人生を無駄にするのが嫌で何年も前にこたつと手を切ったのだけど、同じ理由で今エアコンと手を結ばなくてはならない。どちらも暖房器具なのに不思議なことだけど、エアコンがオフになっている状態は、こたつがオンになっている状態に等しいということに急に気がついたのだ。虫よりすこし賢い。
 虫といえば、最近じぶん自身だけではなくみんなが虫に思える。コロナウイルスとなにか関係があるのかじぶんでもよくわからないが、昨年から急に人間を虫だと感じるようになった。道に新しくお店ができたらみんないつの間にかそこにぞろぞろ入っていくようになるのとか、食べ物が買える場所を学習してまた行くのとかが虫っぽい。
 虫だと感じているときのほうが人間への愛が高ぶるのは不思議なことである。虫同士としての仲間意識と、奇妙で愛らしい生態を観察しているのだというファーブル気分とが混ざりあい、感動で胸が詰まるような気持ちになるのだった。